昨年11月家で夜中につまずいて転倒し膝を強くうち、直ぐ立ち上がろうとしたが激しい痛みで身動きできなかった。何とか朝を待って近くに住む息子に連絡して病院に連れていってもらい受診した結果、膝の皿の骨折【膝蓋骨折】と診断され即入院となり手術をした。
それから55日間の入院生活をおくることになった。83歳の今迄怪我で入院したことがなく、ましてやこんなに長い間正月を挟んで家を留守にするとは思いもよらないことであった。
はじめは入院生活に馴染めず術後の痛みもあって、食事もほとんど食べられず、夜も眠れなかったが、徐々に慣れて回りのいろいろなことが見えるようになった。
執刀してくださった主治医の先生は,朝7時を過ぎるとナースセンターに来ておられてパソコンで調べ物をされている様子、病室の患者さんにも声をかけられている。看護師さんは24時間患者を見守りちょっとした変化も見逃さずお世話をしてくださる。またリハビリの先生は患者のそれぞれの症状に合わせて機能回復など熱心にケアしておられる。わたしは同室の患者さんと少しずつ話せるようになり一日が結構早く過ぎるようになった。
私達患者は術後の症状が落ち着くとすぐにリハビリが始まった。わたしはリハビリの経験がないので (痛いのではないか。厳しく言われるのではないか) など心配していたが、それは無用だった。術後最初の先生は若い女の先生で気負いがなく飾らない人柄だったのでわたしはすぐに馴染むことができた。先生はまだ痛みのあるわたしに日々温かく接してくださり慣れない入院生活で硬くなっている体とともに心も解きほぐしてくださった。時には厳しさもあったがそれは患者を思ってのことであり有難く受け止めた。いつしかわたしは先生のリハビリの時間を楽しみに待つようになっていた。
しかし術後半月を過ぎたころ今度はリハビリ専門の病棟に移ることになった。そこでは毎日一日に2回、30分単位でリハビリをうけるのである。私の担当の先生は大学を出て一年目という爽やかな好青年という印象だった。
わたしは先生のリハビリを一か月あまり受けたが先生はいつも全てに一生懸命でその姿勢が有難かった。例えばリハビリ中にわたしが歩く指導を受けるとき、まだおぼつかない足取りのせいもあって、先生は細心の注意を向けてくださる。その集中力に凄いものを感じた。それは1秒たりとも目を離さないという気迫が伝わって来た。
わたしも病室に戻るとリハビリの宿題をやり、また不用意に転んだりしてはいけないと細心の注意を払った。それが熱心にリハビリをしてくださる先生に対してわたしがしなければならないことだと思った。
後半は退院を視野にいれてのリハビリになったがソーシャルワーカーさんとも話し合って退院後自宅でスムースに生活ができるように様々のアドバイスをしてもらい指導していただいた。その頃リハビリ室では杖に頼らず歩く練習をし階段の上り下りも手すりにつかまりながらであるができるようになっていた。
一か月余り先生にマンツーマンのリハビリを受けて、私の中に強い信頼感が生まれ出来ないながらも先生の言われることに近づきたいと私なりに努力した。
退院が決まった時は家に帰れる喜びと共に、先生のもとで自分なりに頑張ったという清々しさがあった。けれど一方で長い間親身にご指導いただいた先生とのリハビリもこれで終わりと思ったら胸に迫るものがあった。
退院後は週2回通院でリハビリを受けている。今度の先生の最初のリハビリの時、物静かで優しい雰囲気なのに内心緊張していた。それは何も分からないわたしが言うのはおこがましいが、【何でも知っている内面の深い先生】と直感的に感じたからだと思う。回を重ねる毎にその思いは確信に変わった。先生はリハビリをしてくださる中で多角的な見地から患者であるわたしに【なぜここが痛むのか。その原因。そのためにはどのようなリハビリが必要か。】など分かりやすく説明してくださる。わたしは納得し先生を信頼してリハビリを受けている。
わたしは膝蓋骨折をする以前から変形性膝関節症になっていたためその痛みは残っている。そこで先生はその痛みが軽くなるようにと靴底の調整をしてくださった。わたしに何回も靴をぬいだり履かせたりしながら時間をかけて熱心にしてくださる姿に頭が下がった。
わたしには患部を支えるに必要な筋肉が少ないと先生に言われており、筋肉をつけるための自宅でもできるリハビリも教えてもらっている。だがわたしがしていることは先生の言われている量よりかなり少ないと自覚している。それがいつも心にひっかかりながら今に至っている。先生にリハビリをしてもらえる時間は無限にあるわけではない。誰のためでもない。自分自身のためにやらなければならないのである。今からでもどうしたら前に進めるのかよく考えて変えなければならないと思う。
先生のリハビリには、患者を思い遣る温かさがあり、また患者を思い遣る厳しさも感じるが、先生のもとでリハビリを受けさせてもらえることをとても幸せだと思っている。
長い病院生活なので他にも何人もの先生が担当の先生の間に入ってリハビリをしてくださったが、先生方みんな温かく感じがよくて一人一人の先生に自然に感謝の気持が湧いた。たまに病室でリハビリのことが話題になることもあったが、みんな自分の担当の先生の良いところを言い合って楽しく盛り上がった。
病室の一人の患者さんが「わたしは比較的遠くからきているけれどこの病院のリハビリはとても良いと評判なのよ。だから方々の病院から紹介されてくる人が多いのよ」と話してくれた。
わたしはこの地に越してきてまだ一年足らずで何も知らなかったけれど納得して聞かせてもらった。
今、わたしは老夫婦で暮らしている。お陰で家事は大体出来るようになったけれど、出来ないこともあるのでケアマネージャーさん、訪問介護士さんにお世話になりながら、また近くに住む息子たちの手も借りてなるべくポジティブに過ごそうと思っている。
まだ治療途中だけれど沢山の方々にお世話になってここまでこられたことに心中より感謝している。
コメント