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歩行器を押す夫の背中

厳しい残暑も漸く終わり,爽涼の10月に入った日曜日の朝、夫と近くのコンビニにスポー
ツ新聞を買いながら少し散歩をしようと家を出た。


やさしい水色の空が果てしなく続き雲一つない。


少し前を行く夫は歩行器を押して力のない足取りでゆっくり歩を進めている。
わたしは夫の少し後ろについて「車が後ろから来たから気を付けてね」などと声をかけな
がら夫と同じ歩調で歩く


日常の他愛ない話題を話しかけると夫は言葉少なに返してくる。
空気が澄んで清々しく軽やかな気分である。
  
夫が歩行器を使うようになって3ヶ月ぐらいになるだろうか。

脊椎管狭窄症の夫は齢を重ねるにつれ転びやすくハラハラすることが多くなっていた。
ある日一緒に用事で出かけた際、杖をついて前を歩いていた夫が前のめりに転び気を失っ
て救急車で病院に搬送された。頭を打ったので心配したが検査結果は異常なくその日のう
ちに帰宅することができ先ずはほっとした。

しかしこのことがあって夫は外出を渋るようになった。
2年半前、他県から当地に越してきた時、夫が要支援2 (現在は要介護1)、わたしは要支援
1と認定され,以来ケアマネジャーさんが作成してくれたメニューに沿って近くのケアセ
ンターで通所リハビリを受けている。

センターでは利用者にあったメニューで、先生、スタッフが熱心にリハビリの指導をして
くださり、みんな懸命に取り組み汗している。

館内は明るく温かい雰囲気で利用者同士でも会話をして癒される。
そんな中、夫の歩行が安定せず危ないので歩行器を使うように、ケアセンターのリハビリ
の先生から指導を受けた。

だが夫は歩行器を使うことに抵抗があってなかなか受け入れられないでいた。
リハビリの先生は歩行に危険を伴うため時間をかけて説得を続け、後日ケアマネジャーさ
んと一緒に自宅まで来てくださり息子も同席して説得につとめた。

時間はかかったが夫は歩行器を使用することに納得した。

夫のもとに歩行器が届いた日ケアマネジャーさんが自宅まで来てくれ、歩行器がどんな具
合か確かめたいのでご自身で歩行器を押してわたしたちが行く買い物コースを歩いてみる
と言われた。

わたしが恐縮しているうちにケアマネさんはもう歩行器を使って歩きだしている。
わたしはその後姿を目で追いながら多忙の中、時間をかけて夫を説得してくださり、その
うえここまでしてくださる心遣いがありがたく目頭があつくなった。

今、夫は歩行器を自分の身体の一部のように使っている。その背中には逞しかったかって
の面影はない。口に出さないが夫の内心が伝わってくる。

私もこの地に越してきて2年余りの間に3回骨折して入退院を繰り返し主治医の先生はじめ
沢山の関係者にお世話になって元気になれた。

その時夫は近くに住む息子と共に何から何までサポートしてくれた。
このことから高齢になると心身の衰えが加速され状況が変わることを実感したが
反面自然や人の優しさに触れ感動したり、感謝して涙したりすることもある。

これからも夫と共に楽しいこと,辛いことを分かちあって暮らせる日々に感謝して前を向
いて歩いて行きたい。

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この記事を書いた人

84歳のおばあちゃんです。
毎日楽しく過ごしてます。
日々感じた事や過去の事を、つれづれと気の向くままに書いてます。
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