5月にしては肌寒い夜、弘前の同い年の友人から電話がかかってきた。わたしたちは70代になって知りあい10年余りの付合いだが、今はもっとも親しい友人の一人でお互いに日常の些細なことから深い悩みまで話し合っている。
電話は同居している娘夫婦と小学生のお孫さんに車椅子を押してもらい弘前城の満開の桜を見に行ってきた話だった。一家で楽しんできた様子を聞きながら2600本の満開の見事な花を思い描いた。
わたしも以前弘前公園の近くに住んでいた。日が暮れてライトアップされた桜も幻想的でじっと見つめていると別世界に吸い込まれるような気がした。
友人は難しい病を抱えていて最近は少し歩いても息切れがして苦しく前に進めないと聞いている。それだけに車椅子をお孫さんに押してもらい花を満喫できたことを楽しそうに話す友人にわたしは心の底から嬉しく思った。
長く病を抱えながらも明るく振舞い辛さを見せないので頼りにされ悩みを聞いてもらい逆に元気をもらっている人もいる。
わたしは友人の真の強さにいつも感服している。たまに(今日も神様が生を与えてくれた。生きていることが何か意味があるのだと思うの)と話すときがある・・・
どうしたら自分の病状をこんなにしっかり正面から受け止められるのか。そのうえ人に優しく温かくできるのか。わたしだったら自分の苦しみを綿々と聞いてもらう日々をおくるのではないだろうか。
高齢の私たちは長い人生を歩んできてさまざまな喜び、苦しみを体験してきた。特に敗戦を体験したわたしたちは筆舌に尽くしがたい辛い思いをした。苦しみの中でも自分が譲れないものは何かを見極めそれを守り前向きに強く生きてきたのだ。今病の身でありながら相手を思い遣ることができる深い優しさは彼女の真の強さだと思っている。
弘前城の桜は世界一美しいと言われている。一つの枝に淡いピンク色の花を隙間なくつ
け幾重にも畳みかけるように迫ってくる。2600本の桜が豪華絢爛に咲きみだれる光景は圧巻である。
また満開のあと風に乗って散る桜吹雪、外濠が一面にピンクの花びらで埋まる花筏も
見逃せない。
来年は友人を訪ねてこの絶景を一緒に見られることを切に願っている。
今朝も友人が辛い思いをせず穏やかに過ごせる時間を長くお与えくださいと祈った。
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